「インフラにプログラムを潜伏させた。日米同盟を解消したら日本は真っ暗に」~ハライター原の名作紹介「オリバー・ストーン オン プーチン」後半
後半の要点です。
★ウクライナ紛争の発端は「ウクライナを通じて画策された関税障壁なきロシアの完全市場開放」
★「米国との同盟を解消したら日本に仕込んだマルウイルスが発電所や鉄道を破壊し機能停止できる。2007年から2008年に仕込んだ」(スノーデン)
ハライター原の名作紹介として、「オリバー・ストーン オン プーチン」という全4話のインタビュー番組を取り上げています。今までいくつか紹介しましたアマゾンプライム作品の中でも必見です。今回はその紹介の後半です。
第3話 <ウクライナ問題の起点 市場開放を巡る争い>
ソ連崩壊後ウクライナが独立し、急激な民主化と国家資産の公然たる横領が横行し、国民の生活水準は低下します。ロシアとの間で関税障壁のない経済が一体化していたウクライナを通して、ロシアの市場完全開放を画策したアメリカを中心した西側諸国と、WTOと17年間かけて合意した貿易ルールを反故にされ防戦するロシアとの争いが浮き彫りになります。
ウクライナがいったん発表したEUとの連合協定調印を撤回したことが大転換点となります。2013年11月から4か月間もの暴動がウクライナで起きますが、この暴動を「非常に不可解」と言うオリバーストーンは、外国などで訓練を受けた狙撃部隊が警官と市民の双方を狙ったと指摘すると、プーチンも「あなたが言った通り」と応じます。
2014年2月21日ヨーロッパの外相3人同席の上でヤヌコビッチ大統領と反体制派が話し合い、大統領選前倒しに合意しましたが、西側報道では「ヤヌコビッチがキエフを放棄した」と伝えられ、ヤヌコビッチの公邸が占拠された。検事総長が銃撃され、ヤヌコビッチの車列も狙われました。ロシアの手引でヤヌコビッチはロシア併合前のクリミアに逃れ、1週間以上身を隠します。
一連の西側報道について、プーチンは「なんでも曲解され歪められる。何百万人という視聴者を欺ける。メディアが独占状態にあればね。かたよりのない目で見ればクーデターは明らか」と言います。このクーデターを容認しなかったのが南東部のドンバス地方ですが、ロシア語の使用を制限する法律まで作られては親ロ派住民の激しい抵抗もやむなしと思えます。
<ここからいわゆる新保守主義ネオコンの実名と映像がばんばん出てきます>
国務次官補の欧州ユーラシア担当ビクトリア・ヌランド「積極的に政権交代を支持していた」とオリバー。「ジョン・マケイン上院議員が訪れた集会にはネオナチ含む過激派指導者が参加していた」とオリバー。「全米民主主義基金NEDもウクライナで活動していて、カール・ガーシュマン会長はウクライナ独立を強く訴えた」とオリバー。「オープンソサイエティ財団創設者、ハンガリーの大富豪ジョージ・ソロスもウクライナの組織の支援に深く関与している」とオリバー。すべてオリバーストーン発信です。
オリバーストーン「ウクライナの組織の支援に深く関与していますか?」という問いに、プーチンは「承知している」「あなたの言うとおり」と自制的です。
彼らの関与についてもプーチンは「言う通りだ」と応じ、「彼らの行動は時に理解できない。NATOを統制するために外敵を必要としているように見える」と婉曲的な物言いです。
第4話です。
オリバーストーン「民主党全国委員会へのサイバー攻撃はトランプを勝たせるためか?」と聞きます。
プーチンは答えます。「本当にくだらない言説だ。ロシアとの関係修復に取り組むことを公言していたからトランプ氏には好感は持っていた。すると各国のジャーナリストが突っ込んできた。私をはめるために。ハッカーが暴露した疑惑は事実だから全国委員会委員長は辞任した。これはアメリカの内政問題だ。
ロシアがハッキングしたというデマの目的は①大統領の正当性を失わせる②米ロ関係修復を難しくする③米ロ内で政治的争いの引き金を用意する
対して、ロシア大統領選への外国の関与はどうでしょうか?
オリバーストーン「2000年も2012年もロシア大統領選に米は介入したか?」
プーチン「特に2012年は強引だった。私はオバマ大統領とケリー国務長官に問題を伝えた。ロシア駐在の外交官があからさまに介入するとは信じがたい」
ここで再び登場するのが外交官ヌランド氏です。「我々はロシア活動家と国内外において報道の自由を強化するプログラムを実施しています」との映像が流れます。この方はバイデン政権では国務省の№3になっています。
プーチンは続けて「彼らは反体制派を結集し、抗議集会に資金援助した。外交官の本来の任務は二国間の良好な関係を築くことだ」と言います。
ここで極めて日本にも重要な情報が提示されます。
オリバーストーンの映画「スノーデン」の一場面が挿入されます。
スノーデンが日本にいたときの話。NSA(国家安全保障局)は自分たちの能力を日本人に示そうとした。国民の監視活動に協力すると言うと日本側は渋った。日本の法に反するからと。
※スノーデンが横目でオープンガラスの日米会議の様子を見ている場面が出てきます。アメリカ側はNSAの制服と思われます。議会証言の映像で見たNSAの制服とよく似ています。日本側も左肩に☆を載せた軍服を着た人が複数いました。オリバーストーンは細部にこだわる監督ですから、スノーデンの当時の赴任先横田基地内で「監視協力」の提案を受けたのでしょうか。
スノーデンのセリフに戻ります。
「だが僕らは実行した。通信システムにとどまらず物理的インフラにも手を出した。電力系統ダム病院にプログラムを潜伏させたから
アメリカと同盟を解消したら日本は真っ暗になる」
オリバーは「アメリカが日本にマルウエアを仕掛け発電所や鉄道を破壊し機能停止できるなら、ロシアも危険性を認識し対策を講じているはずだ。ロシアはアメリカの仮想敵だから」と振ると、
プーチンは「技術面の自立と安全の確保を検討しはじめたのはここ数年のことだ。今は十分に考え適切に対処している」
アメリカによるイラン核施設へのマルウエア攻撃疑惑を報じた60ミニッツの映像、大統領選後ロシア主要銀行六行で起きたサイバー攻撃を伝えるニュースと、バイデン副大統領とオバマ大統領が民主党へのサイバー攻撃をロシアの仕業と決めつけたうえで、報復をほのめかすインタビュー映像(バイデン2016年2月、オバマ2016年12月)が流れ、オリバーは「とんでもない発言だ。就任式の前に何かあったはずだ」と述べます。
最近のオバマ政権について、互いを表彰し合っていたソ連共産党政治局を思い出すという。バイデンとオバマが勲章を贈り合う様子を「特に滑稽だったね。この政権はもう重大な決定を下せない」と。
原爆投下について
「人類史に悲劇的な1ページが加わった。軍事専門家いわくあの時点で敗北が決まっていた日本に核兵器を使う意味はなかった」
オリバーストーン「ケイマン諸島に隠し財産はあるか?」
「あればとっくに見つかっているよ。金持ちになったところで大きな幸せにつながるとは思わない」
長期政権と後継者について「後継者は必要だ。健全な選考プロセスが大切。この競争に参加できるのは国益を考える者に限るべきだ」
インタビューは、5、6年前のことですが、ウクライナ問題の根っこは何も変わっておらず、マスコミ報道では正しく伝えていないことが当時も今も存在するようです。
プーチンはおかしくなったのか?
少なくとも、この当時は極めて冷静に状況を分析し、アメリカの内政にも外交にも通じています。
たったひとつ聞けなくて残念だったのが、第三次世界大戦の危機とも言われるシリア上空でのトルコ軍機によるロシア軍機撃墜事件です。NATO対ロシアを回避できた真相について知りたかったと思いました。
ただ、その一点を除けば、満足のいく作品でした。
「全体主義のロシア報道より西側の報道の方が信頼できる」
そう言う日本の保守派を自認する方に、是非見てほしいビデオです。