陽謀日記

陽謀を明かします

「憲法を改正したいと思う政治家はとんまだ」(吉田茂)~ハライター原の名著紹介<「日米関係」とは何だったのか>前半

原題アルタード・ステイツ(変えられた国――占領期以降のアメリカと日本)草思社2004年発行 マイケル・シャラー著 市川洋一訳

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赤色宏池会の歴史がよくわかる

チャンネル桜の番組、伊藤貫さんの「真剣な雑談」で話題にされた本の日本語翻訳本です。

日本語版のタイトルが平板過ぎて少し残念です。「変えられた国」の方がよかったでしょう。ともかく、アメリカの資料のみで書かれた日米関係の実際であり、極めて中身は濃いものになっています。

読後の感想のいくつかをまとめると、次の通りです。

憲法9条を最大限利用した、特に吉田、吉田の系譜を引く宏池会

赤色中国との貿易拡大に前のめりのほぼ例外ない歴代首相たち(※台湾との平和条約にこだわった佐藤でも北京との友好回復を期待して仲介者を派遣)

日本とソ連の結びつきを一貫して拒んだ米国

CIAからの資金で選挙を勝ってきた自民党

「核を持ち込ませず」ではない数々の証言

外交は密約ばかり

厚い本でもありますので、前後半に分けてお伝えします。

 

<引用>

第九条は、後にアメリカ政府は後悔することになるのだが…

 

一九五〇年四月に吉田アメリカの外交官クロイス・ヒューストンに、日本の一般国民は「中立政策」を支持、自分はアメリカの保護の価値を十分認識。「たとえ日本がアメリカの植民地になるとしても、結局は日本の方が強くなるだろう」、占領を終わらせるに「アメリカが必要と思うどのような取決め」も受け入れる。

 

<吉田政権下MSK最終交渉のため三人の側近派遣池田、宮沢ら>

アリソン大使と岡崎外相は、日本国民を激怒させた、アメリカの軍人が日本国内で犯した犯罪について訴追を免除する事実上の治外法権を解決した。NATO諸国に駐留するアメリカ軍と同様、在日アメリカ軍も日本の裁判管轄権の下に置くことを規定した改定議定書に署名した。だがアリソンは「実際は日本が…裁判権を行使するのはきわめてまれにしかない」という内容の保証を得ていた。※注釈4章の11より

吉田は「憲法が軍備を禁じているのは、天与の幸運」だと思っていた。「アメリカ側が不満に思っても、憲法が遮蔽物になってくれる。憲法を改正したいと思う政治家はとんまだ」。

 

池田は、日本国民のほとんどは再軍備の援助より赤色中国との貿易制限の緩和を切望していると、述べた。

 

アメリカの軍備増強に消極的な池田…)話し合いのあいだ池田は、日本の憲法が純粋の防衛力以外の兵力の創設を禁じていることを説明した。

(一九五三年十一月に国賓で東京訪問した副大統領)ニクソンは、日本に対するソ連圏の脅威について警告し、日本政府に再軍備を急ぐことを懇請した、吉田と天皇あてのアイゼンハワーの手紙を持参していた。ニクソン日米協会で次のように述べた。

 私は、アメリカは一九四六年(軍備縮小)に間違いを犯したことを、この場で認めるものである。

占領時の改革の中心である憲法の規定を「間違い」だとするこの言葉は、吉田―彼は憲法第九条の陰に隠れていた―を当惑させ、保守党のライバルたちを元気づかせた。

 

首相になる前、岸はアメリカ大使館の高官に運動資金の調達計画について説明した。大企業に「賛助」を要請し、金は中央の金庫に収める。選挙前に特別賛助金を徴収する。これによって党の指導者国会議員に対するより大きな統制力を持つことができ、個々の立候補者は自分で資金を集める必要がなくなる。

この資金調達案は岸の選挙制度改革案の一部をなしていた。彼は小選挙区制を導入する選挙法の改正を促進すると、アメリカ側に通告した。運動資金と選挙制度の改正によって新生自民党の国会支配が保証されるだろう、と彼は予言した。

※小沢ではなく、岸なんですね。小選挙区制を志向した始まりは

 

<岸へのテコ入れ>

アイゼンハワーはCIAの秘密行動開始を認めた。…CIAによる資金は1958年5月の衆議院選運動を始めさまざまな方面に使われた。反社会党活動にも一部の社会党候補者にも資金が提供された。あるCIAの関係者が述べるように、社会党内に役に立つ者を確保することはわれわれのなしうるもっとも重要なこと。

 

<沖縄に核兵器

沖縄基地ベトナムの航空戦にとってとくに重要。…1960年の安全保障条約による制約を受けることなく、アメリカ軍は化学兵器核兵器を貯蔵し、…

 

ニクソンはしばしば東京を訪れた。…再軍備に対する日本の憲法上の制約を嘆き、日本政府に大国らしく振舞うよう求めたが、そこには核兵器の所持も含まれていた。

※注釈12章の4より

ニクソンの伝記作者スティーヴン・アンブローズによれば、伝記ではこの記述に該当する箇所は、最初の原稿の段階では「ニクソンは日本に『核なし』の兵力拡充を促した」となっていたが、原稿を読んだアイゼンハワーから、日本は自分で核能力を持ちたいと思っているといわれたニクソンが、この「核なし」という文言を削ることにした、というのである。

ニクソンは沖縄を日本に返還するにあたっては、基地の維持に好都合な条件のもとで返還したいと言明する一方、日本側が受け入れられるような「主張をしなければ」ならないと考えていた。キッシンジャーは、沖縄については同意見だったが、日本をアメリカの安全保障にとって欠くべからざる存在とは思っていなかった。日本の外交官は「けちなソニーのセールスマン」

主としてニクソンキッシンジャー経済問題に対して無関心であったため、アメリカ政府は通貨問題、貿易問題を無視した。…両人とも国力を経済的な数字よりも軍事的な数字によって測った。この方法によれば、日本は大国の地位には値しない。彼らは貿易問題や通貨問題を二次的な地位に格下げしたり、まったく無視したりすることによって、新たに持ち上げってきた問題の解決をますます困難にしたのである。

 

佐藤首相は沖縄が核兵器抜きで返還されるという保証なしでニクソンと会うことをためらった。…国家安全保障会議事務局のモートン・ホールパリンは非公式に外交官に、首相がワシントンに来ても失望することはないと露骨にほのめかした。

※注釈12章12より

日本の外交官から日本への連絡はアメリカの情報機関によって傍受。切り札を捨てて国益を傷つけたとニクソンキッシンジャーらはホールパリンらを非難。核兵器は妥協するつもりだったが、ニクソンは機密漏洩を問題視し、ジャーナリストや閣僚にFBIの盗聴器をしかけた。

 

キッシンジャーによれば、ニクソンは日本が繊維問題をニクソンの満足のいくように解決すれば、核問題を日本の満足のいくように解決することができるというのである。…沖縄問題に関して話し合いはすらすらと運び、「ヨシダ」(佐藤の友人・若泉敬教授)とキッシンジャーとのあいだで意見の一致。…ニクソンは、緊急時の核兵器の持ち込みを認める秘密協定に佐藤が署名するよう主張した。

若泉は佐藤が署名したことを後に認めている。

1967年に日本の非核三原則を定めた佐藤…首脳会談の直後佐藤は核拡散防止条約に署名し、日本は核兵器の開発をしないことを約束した。

※注釈12章25より

日本は1970年初めに核拡散防止条約に調印したが、批准は1976年まで延期された。核増殖炉の開発努力が禁じられるかもしれないという日本政府の懸念を反映している。

自衛隊を国連待機軍として国連に提供せよ~ハライター原の名著紹介・小沢一郎著「日本改造計画」 後半

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国連中心主義というより世界連邦政府中心主義?

 

小沢一郎著 1993年第1刷、2006年23刷 講談社発行

BLUEPRINT FOR A NEW JAPAN―The Rethinking of a Nation

英語版 | 小沢 一郎 , Eric Gower他 | 1994/9/1

 

小沢一郎著「日本改造計画」前半では、小選挙区制導入によって、少数党による日本占領が可能となり、地方分権の拡大によって、地方からの日本浸食もまた可能になっていることをお話しました。

後半は国連と核兵器についての怖い話です。

 

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ガリ事務総長は、将来の国連の役割を、紛争発生後の平和維持活動だけでなく、紛争防止のための予防や積極的な平和創出などにまで広げるよう提唱。

 

現在の憲法でも、自衛隊を国連待機軍として国連に提供し、海外の現地で活動させることができると考えている。その活動はすべて国連の方針に基づき、国連の指揮で行われるのであり、国連の発動ではないからだ。

国連憲章敵国条項をお忘れか?

 

国連を改革し、国連にアメリカが積極的にかかわるよう働きかけることに成功すれば、日本は、新しい世界秩序の基礎を築くことになる。

新しい秩序つくりと同時に、具体的な平和政策も実行しなければならない。唯一の被爆国日本が核軍縮の大幅促進を主張すべきだ。核兵器対策には二つの段階があり第一段階は核兵器の削減。第二の段階は、一見夢のような話だが、核兵器国連の管理の下に置くことだ。

国連がどこかの場所に集めて保管するのではなく、各国の核装備部隊を国連が一元的に指揮、管理、運営する。

 

※「ロックフェラー帝国の陰謀」で紹介した、ロックフェラー傘下の世界連邦協会初代会長コード・メイヤー・ジュニアは著書「平和かアナーキーか」で「統一世界連邦政府にひとたび加盟したらいかなる国でも脱退したり反抗したりできない。連邦政府は自ら管理する原子爆弾で逆らう国を地球の表面から吹き飛ばす」を思い出す。メイヤーは会長を後身に譲るとCIAの重要な地位に就いた。軍隊の放棄と国家の廃止。2017年現在の世界連邦協会日本国会委員会の名簿には岸田総理も名を連ねることを重ねてお伝えしたい。

 

「終身雇用、年功序列、企業内技術訓練といった日本型企業経営は、協調的労使関係、長期的技術習得、安定雇用などの点で高度経済成長を支えるものであった。しかし経済超大国となった今、時短、転職が増え、社会奉仕に活発になり、女性の社会進出が進み、男性労働者は高齢化、外国人の日本進出も活発に。この変化を梃子にして現在の歪んだ企業社会を果敢に改革することが必要だ。

 

個人の所得税と住民税は半分に。法人税も世界最低水準にする一方、社宅や交際費といった各種サービスは認めない。可処分所得が増えるのでサービスは自由に選択すればよい。

これらの財源は今世紀中に直間比率を是正する。消費税率の引き上げは最も合理的だ。現在三%の消費税率を欧州諸国と米国の中間の一〇%とするのである。

 

本当に意味で日本社会に自由を確立するために教育改革を断行しなければならない。第一に初等中等教育改革(IEA調査では世界上位だが、詰込みだと批判)。基礎学力と応用学力を分ける。基礎(読・書・算)は中央政府が管轄し、応用は地方自治体に設ける特別の教育のための委員会が管轄する

社会や理科で何を教えるかは各地域に任せた方がよい。こうすれば、各地域の独自の文化に根ざした教育がなされ、多様な日本人が生まれるはずである。

 

前半で抱いた思い「日本改造ではなく解体」は後半でさらに高まりました。このような人物が自民党の幹事長に若くして収まれた理由もわかりました。自民党内部から日本解体を図る人物として抜擢されたということでしょうね。公明や維新にもそんな種が仕込まれたように見えるところに闇の深さを感じます。

 

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以上「迷著」、とんでも本の紹介でした。

日本解体計画としか読めない~ハライター原の名著紹介「日本改造計画」( 小沢一郎著) 前半

日本改造計画」(小沢一郎著)

 1993年講談社第1刷、2006年23刷

BLUEPRINT FOR A NEW JAPAN―The Rethinking of a Nation

英語版 | 小沢 一郎 , Eric Gower他 | 1994/9/1

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日本改造計画の日本語版



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近現代史家林千勝さんと新日本文化チャンネル桜の水島社長との対談で、同書はアメリカでも英語版が発行されており、序文をロックフェラー四世が書いていると紹介されました。

ということで読んだ本ですが、読後の感想は「日本解体計画にしか読めない」です。

序文は日本語版にはそれはないし、英語版にはあることも書いていません。しかし、ロックフェラー四世が書かせた「日本解体計画」と読めば、予言の数々が実現していることにも合点がいきます。国連による核の管理を言い出すに至って、ロックフェラーが「書かせたどころでなく自分で書いた」と確信するに至りました。

後段では、公明や維新の日本占領(改造)計画にも言及したいと思います。

 

もはや日本社会は、日本型民主主義の前提である同質社会ではないので変革が必要。第一に政治のリーダーシップを確立、第二に地方分権、第三に規制の撤廃。三つの改革の根底にある究極の目的は、個人の自立、すなわち真の民主主義の確立。

 

少数のダダッ子をなだめるためにすべてを変えると満場一致どころか少数決。日本の戦後政治は多数決の原理を無視あるいは軽視。それが無責任な政治を生んでいる。国民に民主主義的に権力を付託された者が責任をもって決断できる体制にしなければならない。権力は強いだけでなく明確に限定されなければならない。本当に必要な権限以外は地方に委譲し、中央が身軽になり、国家レベルの課題に集中。もうひとつは政権交代

 

世界の激変に対応し日本の平和と繁栄の基盤を再構築するために旧構造の打破は徹底的であればあるほどよい。選挙制度、政治資金制度、政治腐敗防止制度、選挙運動の各改革で四位一体の改革。

中軸は選挙制度の改革。

現行の中選挙区制では「政治とカネ」の問題が相次ぐ。

強調しておくが、選挙制度の改革は政治を改革するための手段であり、決してそれ自体が目的ではない。

※いや、選挙制度改革自体が目的だったのではないか?

 

中選挙区制はぬるま湯構造の維持装置、野党をだめにした。

 

どう改革するか。ダイナミズムを取り戻すこと。ダイナミズムを阻害するのは比例代表制的な原理。少数者の尊重は重要だが、実質的に全会一致制。

小選挙区制ほど明瞭に多数決原理の考え方を反映している、各党が政策を競う。競争原理から二大政党制が確立しやすくなる。

小選挙区制の欠点:少数党に多くの死に票。国民を必要以上に分断。必ずしも二大政党制にならない。社会主義の幻想が消滅しイギリスでは労働党が政権を獲得する可能性はなくなったという声もある。

比例代表制的な要素を加味した小選挙区比例代表並立制の採用を考慮してもよいが、併用案には必ずしも賛成できない。

政治資金の改革は、政治資金の全面公開と政治活動への公的助成の拡大。

※いずれも実現。

※1994年衆議院選での小選挙区比例代表並立制の導入が決まり、1996年の衆院選から実施。

 

政治資金団体をひとつに限り、そこを通してのみ受領、支出し、1年ごとに全面公開する。企業や団体による政治献金は政党に対してのみ。政治資金がほとんど集まらないから政治活動費は公費で助成する以外ない。

※パーティー献金はいかに。岸田もニトリに買ってもらっている。政党への献金も依然大きいものがある。献金上位の医師団体や自動車業界団体は優遇されているように見える。

 

国政改革の第一歩は国民生活に関する分野を思いきって地方に一任する。「新分権体制」の構築。

いかにして地方が知恵を出し国が後押しする体制をつくりあげるか。まず「地方分権基本法」の制定。「全国的な統一性確保の必要から国が特に関与すべき場合を除き、内政事務は、地方がその権限と責任において処理すべきである」

身近なことはすべて地方での考えから、現行の市町村制に代えて全国を三百ほどの自治体に分割する基礎自治体の構想を提唱したい。基礎自治体は「市」と仮称しておこう。

市の中で「地方中核都市とその周辺」「大都市」「大都市周辺の衛星都市」に分類。国の権限と財源を地方に大幅に委譲する。

大阪都構想大阪市の権限と金をむしり取る、を連想した。

 

以上とんでも本を紹介してきましたが、日本解体・占領のタネはさまざまな政党にまかれたことを疑います。まず小選挙区制を使って与党に入った公明党です。

 

公明党委員長の矢野絢也さんの「黒い手帖 創価学会『日本占領計画』の全記録」(2009年講談社発行)から紹介しましょう。

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特に第八章に注目



存亡の危機に陥り、1994年末公明党解散、公明新党と公明に分党、公明新党新進党に合流。1998年公明と新党平和が合流し公明党再結成、そして1999年公明党自民党自由党との連立政権に加わる。「翻弄されたが、気が付けば与党の立場を手に入れ、学会が時の政権を動かしうるポジションを得た」「二大政党の勢力が拮抗すればするほど学会票が政権の行方を左右する」「勝てる見込みのない空白選挙区では学会票を回せる」「中選挙区制では公明党議席を通じてしか政治を支配できなかったが、学会票で政治を支配できる構図が生まれた」という指摘です。

 

キャスティングボードを握ったぐらいで、サブタイトルの「日本占領とは何を大げさな」と笑われるかもしれませんが、第八章の日本占領計画には、合法的な占領計画だけでなく、「1971年ごろ、青年部の最高幹部の間で過激なクーデター計画が話し合われていたという証言もある」として具体的な計画が書かれています。第八章だけでも読む価値はあるのではないでしょうか。

 

また、地方分権を梃子に野党第一党を狙うと公言する日本維新の会。今、大阪市で起きている解体作業は、同党の拡大を許せば、小沢氏が夢描いた地方分権委譲にどんどん近づいていきます。

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以上、日本改造計画の前半でした。

 

ウサマビンラディンは付け足し?~名著紹介<対テロ戦争株式会社 「不安の政治」から営利をむさぼる企業>後半

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本書によれば、911直後のラムズフェルド国防長官の指示内容の一節です

名著紹介<対テロ戦争株式会社 「不安の政治」から営利をむさぼる企業>の後半となります。

2008年河出書房発行、ソロモン・ヒューズ著、松本剛史

政府が金儲けできて、責任逃れもできる民営化の「魅力」を紹介します。草莽には、なんでも民営化のおぞましさだけが骨身にしみます。

 

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冷戦の終結…同時にアメリカと同盟国はもはや世界の舞台で本格的な敵に悩まされることはなくなり、遠く離れた土地での新しい冒険にひきつけられた。

「力の投射」=遠征軍らしい装備=が新しいスローガン

軍事顧問は「非対称の戦争」NATOワルシャワ条約機構は明らかな対称性あり、予測可能。テロリストやならず者国家の動きは予測不能=を心配し始めた。

アルカイダの2001年テロをきっかけに、かつては世界の周縁と考えられていた地域に直接、正確に手を伸ばし、介入する能力が緊急に必要になった。

「スポンサー付き予備兵力」―本来は民間の職員だが、戦闘中には空軍の兵士にも転用できる。

 

「国家建設」は対テロ戦争の主要なテーマになった。もとは宗主国からの独立し独自の国家をつくることだが、冷戦終結後、新たな意味が。

先進国が発展途上国に自分たちの政治、社会形態を押し付けることを意味するようになった。

クリントンのハイチ介入(イラク侵攻のウオーミングアップとして比較的穏当な侵攻)では、ある際立った特徴。国家建設に軍を使うことに共和党の批判があり、クリントンは民間企業ダインコープ(第二次大戦帰還の米軍パイロットが設立)と契約。新しいハイチ国家警察の訓練を行わせた。新警察1995年7月から2年、ヒューマンライツウォッチが、新警察隊が死と虐待に責任ありと報告。民間指導でつくられた警察の悪行はのちのイラクアフガニスタンでの問題の先触れ。だが、契約業者と政府とで責任が分散された結果、あまり大きな批判を浴びず。

 

アメリカの麻薬取締当局はダインコープ社と契約。南米コロンビアやペルーで麻薬戦争に関与。コカ畑を根絶やしにするモンサントラウンドアップ空中散布。→コロンビア国境のエクアドル農民の住民訴訟

ボスニアの再建、国際警察ではダインコープのセクハラで保安官事務所を首になった元保安官補のセクハラ。

ボスニアの不名誉から二つの教訓:再建の責任を避けるために契約業者に頼るのは間違い。戦後再建に民間を使うなら芳しからぬ記録をもつ会社を使う前によく考えるべき。しかし教訓は生かされず。ロンドンもワシントンもダインコープに魅了される。2002年イギリスの外務相ジャック・ストローは「民間軍事会社がすべての新たな国際行動の中心を担うべきだ」という諮問書を提出。ダインコープ社が8回出てくる。

 

イラクをめちゃくちゃにしたのはだれだ!

 

イラク再建では、企業による再建のために、イラクの現在の政府機関すべてを事実上廃止。軍は解体されバース党は非合法化された。連合国は選挙にもとづいたイラクの再建を行おうとはせず、契約によって立て直そうとした。

イラクでのダインコープ社の警察再建は、短い訓練期間に質の悪い指導が組み合わさって新しい警察の隅々にシーア派民兵が入り込み、制服を悪用して宗派対立にもとづく拷問や暗殺をくりかえす。

また別の会社パーソンズ・コーポレーションはバグダッドの警察学校を7500万ドルで再建契約。安普請により上の階から糞尿が大量にあふれ、未来の警官たちの上に滴った。そしてこの粗雑な寄せ集めの隊はばらばらに分裂してそれぞれがギャングになった。

 

1990年10月10日クエート侵攻のイラク軍の蛮行を証言。ナイ―ラというクエートの15歳の少女は「病院でボランティアとして働いているとき、イラク兵士が銃を持って病院に入り、保育器から赤ん坊を取り出し、冷たい床で死ぬにまかせた」この話をブッシュシニアは、10回は繰り返し米国民に恐怖を想起させた。やがてアメリカ主導の戦争が始まり、1991年サダムの軍はクエートから駆逐された。

 

☆死んだ赤ん坊の話の真相

ヒル&ノウルトン社という商業的PR会社が苦労して作り上げたものだった

②ナイ―ラはクエートの駐アメリカ大使の娘だった

→クエートの石油王たちの隠れ蓑「自由クエート市民」を通じて出資し、大手P会社ヒル&ノウルトンによって仕掛けられたキャンペーンの一環

 

911ハイジャック犯の大半はサウジアラビア人。イラク人はひとりもいない。が、イラク対テロ戦争の中心に。

ニューヨーク法学生サッド・アンダーソンはあるノートを入手。スティーヴン・キャンボーンがワールドトレードセンターの崩壊から2時間のうち、ラムズフェルドの指示をまとめた。「近い将来の標的が必要。やれるだけやれなにもかも。関連があろうとなかろうと」

 

さらにこうも書いてあった。「一番いいのは早い情報。サダム・フセインをたたけるだけの情報か同時に判断せよ。ウサマビンラディンだけでなく」

 

911首謀者とされるビンラディンラムズフェルドにとっては、付け足しだったようです。

 

<参考>

ドナルド・ラムズフェルド国防長官

ギリアド・サイエンシズ社の重役

インフルエンザ治療薬「タミフル」で儲けた会社がギ社。ラムズフェルドは昨年6月亡くなったが、同社重役の経歴を書いた一般紙はなかったのではないだろうか。「タミフルは日本が世界で一番売れているという発言の記録が国会議事録にも残っている。ラムズフェルドに限らず、米政府高官が前職などで営利企業の重役である事実は多い。不都合な真実なのか日本の一般紙は「報道しない自由」で触れないことが多いように見える。

彼の考える敵はすべて敵~ハライター原の名著紹介前半<対テロ戦争株式会社 「不安の政治」から営利をむさぼる企業>

名著紹介<対テロ戦争株式会社 「不安の政治」から営利をむさぼる企業>の前半です。

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「本当の敵か否かは関係ない。敵と思えば敵だ」こう考える人が米政府の中枢にいた

 

2008年河出書房発行、ソロモン・ヒューズ著、松本剛史

兵庫チャンネル

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<まえがきー「1984年」株式会社>とあります。あのジョージ・オーウェルの1984年です。

外部の敵のたえざる脅威が内部の監視や抑圧の正当化に利用される国家を描いたものです。たえざる脅威はテロ、パンデミック、狂人的独裁者なんでもありです。オーウェルの予言はすごいとも言えますし、青写真とも言えますが、「対テロ戦争に従事する兵士がたがいに競合する民間企業の職員と知れば、さすがの彼も驚くだろう」と書いています。14年前に著者は戦争の民営化にこれほどの危機感を持っていますが、大半の日本人はこの100分の1にも及ばないでしょう。

 

2003年投資家に出資をもちかけたのがパラディン・キャピタル。テロ攻撃やその他安全保障への脅威から回復するための投資が対象で、1年あたり3億ドル集めたいが、これは控えめ。旅客機が殺人兵器として使われたおかげでアメリカ政府は臨時のテロ対策費に600億ドルを費やすと考えられるから。

アメリカは以前から災害を種に金を稼ごうとする起業家たちにこと欠かず、投資機会をつくり出すのは権力の中枢に近い重要人物。このファンド会社の取締役のひとりが元CIA長官ジェイムズ・ウルジー国防長官ドナルド・ラムズフェルド顧問。彼は新聞を通じてサダム・フセインに関する信ぴょう性のない情報(フェイク、サダムがアルカイダに供給した炭そ菌入り手紙など)。

パラディンの顧問にはラムジーだけではなく、国家安全保障局の元長官、国防高等研究事業局の元副長官、元陸軍長官まで。

ビジネスと政治の混同は、アメリカだけでなく、イギリスでも労働党の元大臣や同党の元議員をロビー会社「ゴールデン・アロー・コミュニケーションズ」が雇い入れ、「政策展開や意思決定者の思考に最も強い影響を及ぼす方法を知っています」と宣伝した。大きなビジネスの前にひれ伏そうとする労働党対テロ戦争が先例にないほど民間企業に依存。

911以降トニー・ブレアブッシュジュニアは新しい安全保障構想で民間企業を重用した。

ツインタワーの崩落から2時間後には、ラムズフェルドの補佐役のノートに国防総省の反応が記されていた。「近い将来の標的が必要になるーやれるだけやれー何もかもだ、関連があろうとなかろうと」。ラムズフェルドはこの攻撃を彼の考える敵すべてに反撃するためのチャンスと見た。

 

本書は同年アメリカで世界初の民間刑務所テネシー州で開設(連邦という構造が新奇な発想の広がりを与えた)、おおむね世界的な民営化の先駆けであるイギリスもサッチャー主義者がアメリカにトップの座を明け渡さないと同年サッチャー政権の知的推進力アダム・スミス研究所は刑務所民営化を推奨し、「警備保障会社とホテルは民間ではありふれたもの。刑務所、少年院、拘置所はその二つの業種の組み合わせが少なからぬ役割果たす」

 

新しい企業が新しい不安に基づくビジネスを求めるパターンは、「対犯罪戦争」のみならずのちの対テロ戦争にも現れる。

 

「二〇〇〇年、チェイニーは副大統領としてホワイトハウスにもどってくると、今度はブッシュ大統領の息子ジョージ・W・ブッシュに仕えた。彼の元の会社ハリバートンは、対テロ戦争での新しい契約――キューバグアンタナモ湾に刑務所施設を建設する、占領下のイラクで石油のインフラを管理する――を得たが、そうしたやり方は国際的な抗議の声を引き起こした。この事件はイギリスで最悪の民営化スキャンダルだったが、そこでチェイニーの果たした役割はあまり知られていない」

 

<お国柄の違いによって民営化のやり方に違い>

20世紀末期のコソボ紛争の際、NATO軍はセルビアを攻撃する拠点基地をコソボにつくっています。

イギリス軍の基地建設契約は、「ハイバーナ・コンソーシアム」というグループに与えられました。これは米軍と先ほどのハリバートンとの取引をモデルにしていたと言います。

 

ハリバートン社は過剰請求で金を稼いだ。将校の部屋を一日に二度以上も掃除し、空荷(からに)のトラックの車列を乗り回した。単純な過剰請求も行い、洗濯物ひと袋に100ドルの値をつけた」アメリカは過剰請求です。

英軍は「ハイバーナ・コンソーシアムは、アメリカの例にはならわず、かわりに独自の、典型的なイギリス流の金の稼ぎ方を見つけた。イギリスの契約業者はひたすら倹約を決め込んだ。冬季用の基地が期限通りに建てられなかったとき悪い気象条件のせいにした」

その結果、「コソボの米軍兵士たちが高値のついた贅沢な環境を楽しみ、暖房の効いたバーガー・バーつきのテントで暮らしているあいだ、英軍の兵士たちはテントの中で冷たい布団にくるまりながら、契約業者がまともな小屋を建てるのを待っていたのだ」

さらにハイバーナ・コンソーシアムの一員である会社が製造しているクラスター爆弾のケースが爆発したあとに実質的な地雷として残る子弾によって英軍部隊のグルカ兵2人が死亡した。グルカ兵とはネパール山岳民族のことで、英軍部隊の傭兵だったわけですね。「英軍兵士の家を建てている会社が彼らを殺したのだ」というわけです。

 

イギリスの保守党と労働党のどちらもが民営化を推進したことを踏まえて、この第2章「基地の誘惑」をこう締めくくっています。

「熱狂的だが断固として社会主義であろうとする新労働党政権の到来は、くたびれた保守党政権の下で停滞していた民営化計画に新たな活気を吹き込んだ。政治的に従来の右派のような『愛国的』な過去を持たない労働党は、かえって軍の伝統を容易に壊して国軍の民営化を加速させることができ、実際に驚くほどの頻度でそうした軍を戦闘に送り込んだ」

 

政府の責任逃れに民営化は都合がいい

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悲報と朗報からの結論「維新に首長やらせない」~ハライター原の維新ニュース

維新ニュース悲報「大阪市立高校21校を大阪府に無償譲渡差止訴訟で住民側敗訴」

維新ニュース朗報「西宮市長選、西宮市議補選で維新候補全滅」

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第6波死亡率全国ワーストの知事はテレビ出演ナンバー1、この人ダレトク?

ハライター原の維新ニュースです。

以前の維新ニュースで無償差止訴訟が結審したことをお伝えしましたが、今回は先週金曜25日の判決で住民側が敗訴した件と、27日(日)の西宮市長選で維新敗北の件を合わせてお伝えします。

そのこころは、「維新候補は絶対に首長にしない。なられたら県や市や町の財産を何でも叩き売る」です。

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裁判は、傍聴券を求めることになりました。だいたい1.5倍くらいでしたが、結果は傍聴できませんでした。これはコロナ騒ぎによるソーシャルディスタンスの間引きで80席が40席に半減したためです。国民の権利、私権制限の一端がここにも現れています。

 

さて、住民側が違法とする根拠の法律は次の通りです。

大阪市財産条例第十六条 普通財産は、公用又は公共用に供するため特に無償とする必要がある場合に限り、国又は公法人にこれを譲与することができる。

地方財政法第二十七条の三 (都道府県が住民にその負担を転嫁してはならない経費)

 都道府県は、当該都道府県立の高等学校の施設の建設事業費について、住民に対し、直接であると間接であるとを問わず、その負担を転嫁してはならない。

地方自治法第二百三十二条の二 (寄附又は補助)

 普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。

 

大阪市の財産を大阪府へ移管する議決は経ましたが、「無償譲渡」の議決は経ていません。「特に必要がある」「公益性がある」は議決によって明らかにされるものなのに、「違反していない、公益性はある」という判断を司法が下してしまったわけです。大阪で圧倒的に強い政治力への忖度すら感じさせます。

 

そして、もうひとつの仕掛けが大阪府立高校条例の存在です。

3年間倍率1を下回って定員割れしたら、再編統合の対象とするものです。すでに 東淀、生野、泉尾の市立工業3校は移管後の統廃合対象。大阪市民の税金で整備した高校でも、廃校後の土地・建物の売却代金は大阪府の収入になります。

市場原理が好きですね。本来市場原理など導入すべきでないのが教育だと思います。

次回衆院選野党第一党を目指す維新の活動方針案によると、大阪を中心とした「ベンチャー企業」から「全国展開企業」への飛躍と、すっかり会社感覚です。

 

話を戻しますと、原告側の報告会では、不当判決からさらに不安は広がりました。▽大阪市の空洞化が広がる▽大阪市長大阪府のために働いている▽同じやり方で(議決を避けて首長の判断で)市立公園や中之島公会堂も処分されるのではないか▽大阪府の事業IRのために大阪市の財産を差し出すのではないか、等々。

 

住民側は大阪高裁へ控訴する意向ですが、4月1日からの移管となりますので、今後は差止訴訟から損害賠償請求訴訟となります。

 

次に、西宮市長選、西宮市議補選で維新公認候補が3人全員敗北したという朗報です。特に市長選では、現職が次位の維新候補に4万票近くの大差をつけました。もちろん若い現職の強みはあるでしょうが、維新の勢いに陰りがあるのかもしれません。

前回衆院選で西宮選挙区は兵庫7区と兵庫2区に分かれていますが、7区比例、2区比例でも次位の自民党をそれぞれ上回る票を獲得しています。このときは、維新に順風が吹いていたようですが、維新県政を味わった西宮市民が何かきな臭いものを感じ取ったのでしょうか?

 

広域一元化条例が大阪市議会で可決された昨年3月の一般紙記事に指摘がありました。「大規模な都市計画に関する府のノウハウ不足も指摘されている。2002年以降、大規模都市開発で指定される『都市再生特別地区』は府内23件。このうち、府は1件のみで、22件は大阪市の案件」

市立高校の商業高校や工業高校のノウハウを大阪府はまったく知りません。府は普通科、市は商業や工業という一種のすみわけが長らくの伝統だったからです。

大規模再開発も市立高校無償譲渡についても、ベテランドライバーがペーパードライバー運転の助手席に座るようなものです。目に見えないノウハウ、目に見えない伝統の重みを大切に思えない唯物論者の考えでしょう。

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野口英世評の日米格差~ハライター原の名著紹介「生物と無生物のあいだ」

福岡伸一著「生物と無生物のあいだ」2007年講談社発行を紹介します。

 

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日本文化チャンネル桜での水島社長と林千勝さんとの対談で、「〇ァウチの元祖」と紹介されたのが、偉人伝で誰もが読んだことのある野口英世です。幼少時の手の大やけどというハンデをもろともせずにアメリカで立身出世した人。

対談を聞いて思い出したのが、分子生物学福岡伸一さんの「生物と無生物のあいだ」という本です。

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珍しく図書館で借りたものではありません



福岡さんはハーバード大学医学部研究員で、ロックフェラー大学の分子細胞学研究室でも勤務しました。冒頭、よく利用した同大学の図書館の話から始まります。

 

ロックフェラー大学が地元ニューヨーカーですら大学とわからないようなマンハッタンの東端の通りという場所、控えめな建物。当初はロックフェラー医学研究所で知られた。

24時間開いている図書館の二階の一隅に黒ずんだブロンズ胸像がおかれていて当初は誰かも気付かずにいた。プレートをふと見ると野口英世の胸像だった。日本人なら誰でも知ってる偉人だが…。

 

ロックフェラー大学での評価は日本でのものと異なる。大学の何人かの同僚に聞いてみたが、誰も胸像の人物がどんな人物なのかを知らなかった」

 

2004年6月発行のロックフェラー大学定期刊行広報誌。ブロンズ像をみせてほしいという日本人観光客が急増。大型バス三台を連ねて日本人の大群。この年の秋に新千円札の肖像画になるからだが、日本人にとって立志伝中の人物と紹介したあと、辛辣な野口評を。創成期の23年間の研究成果は当時こそ賞賛を受けたが、多くの結果は矛盾と混乱、その後間違いと判明したものも。むしろヘビードリンカー、プレイボーイとして評判だと。

サイモン・フレクスナー赤痢菌の単離、来日時一種の社交辞令で励ますと、野口は彼を押しかけ、実験助手として200編の論文をものにするまでになった。

フレクスナーという大御所が背後に存在し、追試や批判を封じていたとの論文も出た。

 

しかし、福岡さんは野口が対峙した感染症の原因の多くは細菌ではなく、当時の顕微鏡としてはあまりにも小さ過ぎたウイルスであったことを指摘します。散々の評判に対する一種の同情でしょう。

一時期「公衆衛生の英雄」だったかもしれませんが、その後の評判が落ち込んだのは間違いないようです。それが日本にはあまり伝わらなかった。

野口が「〇ァウチの元祖」であるならば、〇ァウチもまた用が済めば使い捨てられるのかもしれません。

 

さて、この本の題名でもある生物と無生物のあいだにいるのが、野口に立ちはだかった、細菌よりもずっと小さいウイルスです。

ウイルスは栄養を摂取することがなく、呼吸もしない。二酸化炭素も出さず老廃物も排泄しない。一切の代謝をしない。単なる物質から一線を画すのが、ウイルスが自らを増やせるということ。細胞に寄生することによってのみ複製する。

ウイルスを生物とするか無生物とするかは長らく論争の的。いまだに決着していない。

私(福岡さん)は「ウイルスを生物であると定義しない。自己複製だけでは不十分だ」と言います。

 

宿主(ホスト)に寄生しないと増殖できない。

皆さんピンときませんか。古くはローマ帝国から、フランス、ロシア、アメリカ、そして日本。富を持ち栄えた宿主にとりつき増殖する無生物のような生物のようなウイルス。グローバリズム共産主義をあがめる人にとっては、ウイルスはわが身のように思え、その特性を熟知し、最大限活用するようでなりません。

 

この本にはPCRについても詳しく書かれています。1988年アメリカでの研究生活スタート時に研究所も学会も席巻していたのがパーキン・エルマー・シータス社のPCR(ポリメラーゼチェインリアクション)マシンだったから。好きな遺伝子を自由自在に複製する技術、DNAバンドがはっきり浮かび上がる技術。

加熱してDNAの鎖を切り、温度を下げてポリメラーゼによる合成反応を起こす

この1サイクルでDNAは4倍に。1サイクルはほんの数分。10サイクルで1024倍、20サイクルで100万倍、30サイクルで10億倍を突破。この間わずか2時間。この増幅回数、感度を上げる意味の重要さがわかるでしょう。

ごく短い一本鎖DNAというプライマーふたつを使って特定範囲だけを見つけ出して増幅する。この見つけ出すところがミソです。

この発見者はキャリー・B・マリス。PCRの原理を恋人とのデート中にひらめいたサーファー。研究の要点とコツを教えるポスドクを渡り歩き、PCR発明者として名前が出るとさまざまな噂が出た。PCR利権から外されたのでいまだにシータス社を恨んでいるとか。エイズの原因がエイズウイルスではないと主張しているとか。

 

ウィキペディア参考

1993年ノーベル化学賞受賞、2019年8月7日死亡。

学界の主流から外れた主張を繰り返すことが多く、本人曰くコッホの三原則に反しているという論拠に依るエイズの原因はHIVではないというエイズ否認論者であると共に、フロンガスによるオゾン層破壊や地球温暖化を否定することなどでも知られる。

脚注:米紙サンフランシスコ・クロニクル(電子版)は10日、米生化学者でノーベル化学賞受賞者のキャリー・マリス氏が、カリフォルニア州の自宅で7日に死去したと報じた。74歳だった。

 

その後の「動的平衡」というベストセラーにつながる生命観の大発見についても記述があります。ルドルフ・シェーンハイマーという科学者。ノーベル賞級の研究でありながら、名誉とはほぼ無縁で1941年自死しました。

 

食べ物はすぐさま分子、原子レベルに消化され、取り込まれる。古典的生命観は内燃機関としてのエネルギーとして使われるはずだが、実際には体内にどんどん取り込まれる。3か月もすれば、細胞レベルではすっかり入れ替わっている。しかし、変わらずあなたであり私である。これがシェーンハイマーの到達した「動的平衡」です。

 

具体的には、重窒素で標識されたアミノ酸が3日間与えられ、おとなのネズミで追跡されました。尿や糞で排泄されたのは3分の1弱。重窒素の半分以上が体内のタンパク質に取り込まれました。ありとあらゆる部位に分類。ネズミの体重は変化していない。たった3日間でアミノ酸の約半数ががらりと置き換えられた。さらに詳しく研究すると、アミノ酸よりさらに下位の分子レベルで絶え間なく入れ替わる。皮膚や爪や毛髪が絶えず新生しつつ置き換わっているどころではなく、臓器や組織、骨や歯も置き換わっている。体脂肪でさえそう。

福岡さんは「生命とは動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)にある流れである」と生命の本質にたどり着きます。

 

母国の真の歴史を半世紀も知らずにいた自分が、完全に目を覚ませたのも、「動的平衡」という人間の命のダイナミックでありながら、はかなくもある驚きをこの本で知たからかもしれません。うまくは説明できませんが。

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