陽謀日記

陽謀を明かします

野口英世評の日米格差~ハライター原の名著紹介「生物と無生物のあいだ」

福岡伸一著「生物と無生物のあいだ」2007年講談社発行を紹介します。

 

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日本文化チャンネル桜での水島社長と林千勝さんとの対談で、「〇ァウチの元祖」と紹介されたのが、偉人伝で誰もが読んだことのある野口英世です。幼少時の手の大やけどというハンデをもろともせずにアメリカで立身出世した人。

対談を聞いて思い出したのが、分子生物学福岡伸一さんの「生物と無生物のあいだ」という本です。

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珍しく図書館で借りたものではありません



福岡さんはハーバード大学医学部研究員で、ロックフェラー大学の分子細胞学研究室でも勤務しました。冒頭、よく利用した同大学の図書館の話から始まります。

 

ロックフェラー大学が地元ニューヨーカーですら大学とわからないようなマンハッタンの東端の通りという場所、控えめな建物。当初はロックフェラー医学研究所で知られた。

24時間開いている図書館の二階の一隅に黒ずんだブロンズ胸像がおかれていて当初は誰かも気付かずにいた。プレートをふと見ると野口英世の胸像だった。日本人なら誰でも知ってる偉人だが…。

 

ロックフェラー大学での評価は日本でのものと異なる。大学の何人かの同僚に聞いてみたが、誰も胸像の人物がどんな人物なのかを知らなかった」

 

2004年6月発行のロックフェラー大学定期刊行広報誌。ブロンズ像をみせてほしいという日本人観光客が急増。大型バス三台を連ねて日本人の大群。この年の秋に新千円札の肖像画になるからだが、日本人にとって立志伝中の人物と紹介したあと、辛辣な野口評を。創成期の23年間の研究成果は当時こそ賞賛を受けたが、多くの結果は矛盾と混乱、その後間違いと判明したものも。むしろヘビードリンカー、プレイボーイとして評判だと。

サイモン・フレクスナー赤痢菌の単離、来日時一種の社交辞令で励ますと、野口は彼を押しかけ、実験助手として200編の論文をものにするまでになった。

フレクスナーという大御所が背後に存在し、追試や批判を封じていたとの論文も出た。

 

しかし、福岡さんは野口が対峙した感染症の原因の多くは細菌ではなく、当時の顕微鏡としてはあまりにも小さ過ぎたウイルスであったことを指摘します。散々の評判に対する一種の同情でしょう。

一時期「公衆衛生の英雄」だったかもしれませんが、その後の評判が落ち込んだのは間違いないようです。それが日本にはあまり伝わらなかった。

野口が「〇ァウチの元祖」であるならば、〇ァウチもまた用が済めば使い捨てられるのかもしれません。

 

さて、この本の題名でもある生物と無生物のあいだにいるのが、野口に立ちはだかった、細菌よりもずっと小さいウイルスです。

ウイルスは栄養を摂取することがなく、呼吸もしない。二酸化炭素も出さず老廃物も排泄しない。一切の代謝をしない。単なる物質から一線を画すのが、ウイルスが自らを増やせるということ。細胞に寄生することによってのみ複製する。

ウイルスを生物とするか無生物とするかは長らく論争の的。いまだに決着していない。

私(福岡さん)は「ウイルスを生物であると定義しない。自己複製だけでは不十分だ」と言います。

 

宿主(ホスト)に寄生しないと増殖できない。

皆さんピンときませんか。古くはローマ帝国から、フランス、ロシア、アメリカ、そして日本。富を持ち栄えた宿主にとりつき増殖する無生物のような生物のようなウイルス。グローバリズム共産主義をあがめる人にとっては、ウイルスはわが身のように思え、その特性を熟知し、最大限活用するようでなりません。

 

この本にはPCRについても詳しく書かれています。1988年アメリカでの研究生活スタート時に研究所も学会も席巻していたのがパーキン・エルマー・シータス社のPCR(ポリメラーゼチェインリアクション)マシンだったから。好きな遺伝子を自由自在に複製する技術、DNAバンドがはっきり浮かび上がる技術。

加熱してDNAの鎖を切り、温度を下げてポリメラーゼによる合成反応を起こす

この1サイクルでDNAは4倍に。1サイクルはほんの数分。10サイクルで1024倍、20サイクルで100万倍、30サイクルで10億倍を突破。この間わずか2時間。この増幅回数、感度を上げる意味の重要さがわかるでしょう。

ごく短い一本鎖DNAというプライマーふたつを使って特定範囲だけを見つけ出して増幅する。この見つけ出すところがミソです。

この発見者はキャリー・B・マリス。PCRの原理を恋人とのデート中にひらめいたサーファー。研究の要点とコツを教えるポスドクを渡り歩き、PCR発明者として名前が出るとさまざまな噂が出た。PCR利権から外されたのでいまだにシータス社を恨んでいるとか。エイズの原因がエイズウイルスではないと主張しているとか。

 

ウィキペディア参考

1993年ノーベル化学賞受賞、2019年8月7日死亡。

学界の主流から外れた主張を繰り返すことが多く、本人曰くコッホの三原則に反しているという論拠に依るエイズの原因はHIVではないというエイズ否認論者であると共に、フロンガスによるオゾン層破壊や地球温暖化を否定することなどでも知られる。

脚注:米紙サンフランシスコ・クロニクル(電子版)は10日、米生化学者でノーベル化学賞受賞者のキャリー・マリス氏が、カリフォルニア州の自宅で7日に死去したと報じた。74歳だった。

 

その後の「動的平衡」というベストセラーにつながる生命観の大発見についても記述があります。ルドルフ・シェーンハイマーという科学者。ノーベル賞級の研究でありながら、名誉とはほぼ無縁で1941年自死しました。

 

食べ物はすぐさま分子、原子レベルに消化され、取り込まれる。古典的生命観は内燃機関としてのエネルギーとして使われるはずだが、実際には体内にどんどん取り込まれる。3か月もすれば、細胞レベルではすっかり入れ替わっている。しかし、変わらずあなたであり私である。これがシェーンハイマーの到達した「動的平衡」です。

 

具体的には、重窒素で標識されたアミノ酸が3日間与えられ、おとなのネズミで追跡されました。尿や糞で排泄されたのは3分の1弱。重窒素の半分以上が体内のタンパク質に取り込まれました。ありとあらゆる部位に分類。ネズミの体重は変化していない。たった3日間でアミノ酸の約半数ががらりと置き換えられた。さらに詳しく研究すると、アミノ酸よりさらに下位の分子レベルで絶え間なく入れ替わる。皮膚や爪や毛髪が絶えず新生しつつ置き換わっているどころではなく、臓器や組織、骨や歯も置き換わっている。体脂肪でさえそう。

福岡さんは「生命とは動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)にある流れである」と生命の本質にたどり着きます。

 

母国の真の歴史を半世紀も知らずにいた自分が、完全に目を覚ませたのも、「動的平衡」という人間の命のダイナミックでありながら、はかなくもある驚きをこの本で知たからかもしれません。うまくは説明できませんが。

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