陽謀日記

陽謀を明かします

彼の考える敵はすべて敵~ハライター原の名著紹介前半<対テロ戦争株式会社 「不安の政治」から営利をむさぼる企業>

名著紹介<対テロ戦争株式会社 「不安の政治」から営利をむさぼる企業>の前半です。

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「本当の敵か否かは関係ない。敵と思えば敵だ」こう考える人が米政府の中枢にいた

 

2008年河出書房発行、ソロモン・ヒューズ著、松本剛史

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<まえがきー「1984年」株式会社>とあります。あのジョージ・オーウェルの1984年です。

外部の敵のたえざる脅威が内部の監視や抑圧の正当化に利用される国家を描いたものです。たえざる脅威はテロ、パンデミック、狂人的独裁者なんでもありです。オーウェルの予言はすごいとも言えますし、青写真とも言えますが、「対テロ戦争に従事する兵士がたがいに競合する民間企業の職員と知れば、さすがの彼も驚くだろう」と書いています。14年前に著者は戦争の民営化にこれほどの危機感を持っていますが、大半の日本人はこの100分の1にも及ばないでしょう。

 

2003年投資家に出資をもちかけたのがパラディン・キャピタル。テロ攻撃やその他安全保障への脅威から回復するための投資が対象で、1年あたり3億ドル集めたいが、これは控えめ。旅客機が殺人兵器として使われたおかげでアメリカ政府は臨時のテロ対策費に600億ドルを費やすと考えられるから。

アメリカは以前から災害を種に金を稼ごうとする起業家たちにこと欠かず、投資機会をつくり出すのは権力の中枢に近い重要人物。このファンド会社の取締役のひとりが元CIA長官ジェイムズ・ウルジー国防長官ドナルド・ラムズフェルド顧問。彼は新聞を通じてサダム・フセインに関する信ぴょう性のない情報(フェイク、サダムがアルカイダに供給した炭そ菌入り手紙など)。

パラディンの顧問にはラムジーだけではなく、国家安全保障局の元長官、国防高等研究事業局の元副長官、元陸軍長官まで。

ビジネスと政治の混同は、アメリカだけでなく、イギリスでも労働党の元大臣や同党の元議員をロビー会社「ゴールデン・アロー・コミュニケーションズ」が雇い入れ、「政策展開や意思決定者の思考に最も強い影響を及ぼす方法を知っています」と宣伝した。大きなビジネスの前にひれ伏そうとする労働党対テロ戦争が先例にないほど民間企業に依存。

911以降トニー・ブレアブッシュジュニアは新しい安全保障構想で民間企業を重用した。

ツインタワーの崩落から2時間後には、ラムズフェルドの補佐役のノートに国防総省の反応が記されていた。「近い将来の標的が必要になるーやれるだけやれー何もかもだ、関連があろうとなかろうと」。ラムズフェルドはこの攻撃を彼の考える敵すべてに反撃するためのチャンスと見た。

 

本書は同年アメリカで世界初の民間刑務所テネシー州で開設(連邦という構造が新奇な発想の広がりを与えた)、おおむね世界的な民営化の先駆けであるイギリスもサッチャー主義者がアメリカにトップの座を明け渡さないと同年サッチャー政権の知的推進力アダム・スミス研究所は刑務所民営化を推奨し、「警備保障会社とホテルは民間ではありふれたもの。刑務所、少年院、拘置所はその二つの業種の組み合わせが少なからぬ役割果たす」

 

新しい企業が新しい不安に基づくビジネスを求めるパターンは、「対犯罪戦争」のみならずのちの対テロ戦争にも現れる。

 

「二〇〇〇年、チェイニーは副大統領としてホワイトハウスにもどってくると、今度はブッシュ大統領の息子ジョージ・W・ブッシュに仕えた。彼の元の会社ハリバートンは、対テロ戦争での新しい契約――キューバグアンタナモ湾に刑務所施設を建設する、占領下のイラクで石油のインフラを管理する――を得たが、そうしたやり方は国際的な抗議の声を引き起こした。この事件はイギリスで最悪の民営化スキャンダルだったが、そこでチェイニーの果たした役割はあまり知られていない」

 

<お国柄の違いによって民営化のやり方に違い>

20世紀末期のコソボ紛争の際、NATO軍はセルビアを攻撃する拠点基地をコソボにつくっています。

イギリス軍の基地建設契約は、「ハイバーナ・コンソーシアム」というグループに与えられました。これは米軍と先ほどのハリバートンとの取引をモデルにしていたと言います。

 

ハリバートン社は過剰請求で金を稼いだ。将校の部屋を一日に二度以上も掃除し、空荷(からに)のトラックの車列を乗り回した。単純な過剰請求も行い、洗濯物ひと袋に100ドルの値をつけた」アメリカは過剰請求です。

英軍は「ハイバーナ・コンソーシアムは、アメリカの例にはならわず、かわりに独自の、典型的なイギリス流の金の稼ぎ方を見つけた。イギリスの契約業者はひたすら倹約を決め込んだ。冬季用の基地が期限通りに建てられなかったとき悪い気象条件のせいにした」

その結果、「コソボの米軍兵士たちが高値のついた贅沢な環境を楽しみ、暖房の効いたバーガー・バーつきのテントで暮らしているあいだ、英軍の兵士たちはテントの中で冷たい布団にくるまりながら、契約業者がまともな小屋を建てるのを待っていたのだ」

さらにハイバーナ・コンソーシアムの一員である会社が製造しているクラスター爆弾のケースが爆発したあとに実質的な地雷として残る子弾によって英軍部隊のグルカ兵2人が死亡した。グルカ兵とはネパール山岳民族のことで、英軍部隊の傭兵だったわけですね。「英軍兵士の家を建てている会社が彼らを殺したのだ」というわけです。

 

イギリスの保守党と労働党のどちらもが民営化を推進したことを踏まえて、この第2章「基地の誘惑」をこう締めくくっています。

「熱狂的だが断固として社会主義であろうとする新労働党政権の到来は、くたびれた保守党政権の下で停滞していた民営化計画に新たな活気を吹き込んだ。政治的に従来の右派のような『愛国的』な過去を持たない労働党は、かえって軍の伝統を容易に壊して国軍の民営化を加速させることができ、実際に驚くほどの頻度でそうした軍を戦闘に送り込んだ」

 

政府の責任逃れに民営化は都合がいい

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