陽謀日記

陽謀を明かします

「実名報道にご理解を」の前に、「報道しない自由の説明を」~ハライター原のライブ塾

ライブ後の出来事も加味してまとめました。かなり長文となりましたが、ご了承ください。

 

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日本新聞協会は3月10日実名報道に関する考え方を一問一答形式で公表しました。▽2019年7月18日、36人もの命が奪われた京都アニメーション放火殺人事件▽昨年12月17日には大阪で26人が犠牲となる放火殺人事件――を踏まえ、事件や事故で犠牲になった被害者の実名報道について、子どもを亡くされた遺族や弁護士など専門家の方々からも意見を伺い、考え方を整理したということです。

 

ホームページで一読した印象は、クレーマー対応の想定問答集に見えます。そして各設問に対する回答が長すぎる。長々説明しなければならないのは、簡潔、単純明快な理由になっていないからでしょう。遺族に「実名報道や顔写真の掲載の理由は何か?」と尋ねられたら、筆舌を尽くして説明するんでしょうか。

そもそも実名報道の大切さを語る際に、筆者の実名を名乗らないのはいかがなものでしょうか。

また、声明・見解の公表は3月10日付です。東日本大震災を前に公表された割には大規模自然災害の被害者実名報道について一切語っていません。事件被害者のことばかり言っているのは不思議です。

また、ウクライナのゼレンスキー大統領がリモートでの米連邦議会で日本の「真珠湾攻撃」を例に出して支援を呼び掛けたことをほとんどの大手メディアが報道していません。「日本の国会でも演説したい」という意向が同大統領にはあるわけですから、この発言は看過できません。しかし、「真珠湾攻撃を悪」「日本軍は悪」と決めつける勢力に戦後許された大手メディアにとっては、肯定的にも否定的にも報じられない、触らぬ神に祟りなしといった類の発言です。このような「(都合の悪いことは)報道しない自由」が日々繰り返される中で、そもそも実名報道の判断を報道側に付託できるでしょうか。

 

以下、新聞協会のQ全文とAの概要(「引用を超えている」と難癖をつけられないように一部引用とします。皆様が実際にご覧ください)。

※で私見・感想を述べさせていただきます。

 

Q1:なぜ事件の犠牲者を実名で報じるのですか?

事件の詳細が社会で共有され、一人ひとりが犠牲者を悼むとともに、二度と起こることがないように対策などを論じていくことが健全な社会。京都アニメーション事件も、無辜(むこ)の人々を襲った、理不尽極まりない大規模放火殺人で、後世にも伝え続けられるべき社会的な事件。社会で共有すべき情報を皆さんに伝え、記録することが、私たち報道機関の責務です。中でも、誰が被害に遭ったのかという事実は、その核心匿名社会では、被害者側から事件の教訓を得たり、後世の人が検証したりすることもできなくなります

米紙ニューヨーク・タイムズの 2012 年 12 月 16 日の 1 面を例示。

コネティカット州の小学校で、20 歳の男が校舎に侵入し、6 歳と 7 歳の子ども 20 人と教師ら 6 人の計 26 人を銃で殺害。同紙は亡くなった子どもたち全員の名前を大きく掲載。

名前を知り、在りし日の人生を知ることで、人々は犠牲者をより身近に感じ、その死を悼みます。名前は、犠牲者への共感を生み、事件を他人事と思わせず、再発防止に向けた制度の改善などの議論を促す力になると考えており、そうした例も数多くあります。

そして、福岡飲酒運転事故3児死亡が飲酒運転厳罰化につながり、桶川ストーカー事件がストーカー規制法につながったりしたことを挙げています。

 

※飲酒運転厳罰化、ストーカー規制法などの法改正や社会正義の実現は、遺族の勇気・決意が起点であり原動力となっています。一律の実名公表が起点・原動力になっているわけではありません。

報道が社会を動かすのではなく、遺族の勇気が社会を動かすのです。

また、社会を動かした例があるからと言って、警察や自治体の発表頼みの一律な実名報道を正当化できないと思います。「社会を動かすために」と言われても、匿名ですら取材を受けたくない遺族はたくさんいるからです。「そんなことではいけない」と誰が言えるでしょうか。

遺族に社会を動かす役割を無理やり追わせるべきではありません。

メディア側が再発防止につながる事実を突き止めることこそ求められます。

実名報道を否定はしませんが、一律の実名報道には大いに疑問を持っています。

 

ベトナム戦争時、米軍の傭兵となった韓国軍によるベトナム人虐殺事件の舞台となったベトナム中部には数多くの慰霊碑が残されています。2歳の誰々が亡くなったという実名と年齢が記された事実はとても重みのあるものですが、そもそもこの事実自体を報じない、報じさせない言論空間が存在することは指摘しておきたいと思います。

 

Q2:遺族などの匿名希望は考慮していますか?

実名で報じることを絶対視していない。遺族の思いは尊重されるべきもので、その必要性を事件ごとに判断しています。遺族の希望、事件の重大性、社会性、被害の内容などを考慮し、被害者を実名で報じるか匿名で報じるか、悩みながら社内で議論しています。選択した判断も状況に応じて見直しています。「繰り返し名前を見るのが苦痛だ」といった遺族の声を尊重し、当初は実名でも、その後は匿名にする場合もあります。また、現場の様子などの表現も、遺族の心情をかき乱しかねない言葉を避けるなど、日々、検討を続けています。

 

※引用部分が増えましたが、長々書き連ねたわりには大したことのない対応であることを示したかったのです。

 

近年、遺族が匿名を希望するケースが増えてきていることは認識。その背景の一つはインターネット。SNS などネットの世界は、誰もが自由に発言できる一方で、デマや間違った情報が氾濫し、瞬く間に拡散します。事件や事故の被害者が、いわれのない誹謗中傷にさらされる悲しい事態も起きています。このような状況に、遺族は不安を抱かれているのだと思います。是正に役立つ報道に努めています。実名で報じるかどうかの判断は、報道する側が責任をもって行うことです。

 

※「実名報道の判断は報道側にある」という説明は看過できません。

実名報道の「好例」は例示されていますが、重大事件かつ遺族も実名に同意したが、総合的に判断して報道が匿名報道を選択したケースは例示されていません。つまりは、やむを得ず断念はしても、匿名の判断は選択肢にはないということでしょう。

 

Q3:実名の報道は報道側の利益のためではないのですか?

名前は、個人が群衆の中にいる「ワン・オブ・ゼム」ではなく、唯一の存在であることの証。報道には、そのことを社会で共有するという役割があります。この役割は人々の「知る権利」に奉仕することとも言われます。実名での報道は、その責務の一環であり、報道側の利益が目的ではありません。

 

※名前(事件被害者の実名)は唯一の存在の証。その名前を社会で共有する役割が報道にはある。実名報道は「知る権利」に奉仕する責務の一環で、報道側の利益が目的ではないと言っています。

知る権利は国民のものとすれば、国民が報道に向ける厳しい目と同時に、知る権利への奉仕を報道に付託しているということでしょうか。

「公器を名乗るに値しない」という声には答えないで、大上段に公器を自認して公益性を語るのは苦しい説明と言わざるを得ません。

 

お話を伺ったご遺族からは、名前の持つ重みとともに、報道機関に求められる対応についても意見を頂きました。「葬儀に参列してくれた」「事故の悲惨さは実名があることでより具体的に伝わり、共感を得ることができる」「実名には名前で弔うという大切な意味がある」。

「名前は個人を識別する重要なもので、次男は大勢の中の一人ではない。次男は 11 歳で命を奪われたが、彼なりの人生があり、その人生が抹殺されてよいわけがない。『少年』などと書かれれば、豊かな人生がなかったことにされる」。

自由な報道によって市民社会が情報を得るという公の利益のためです。「金もうけのために実名で報道をしている」などという意見も見受けられますが、事実ではありません。京都アニメーション事件では、実名で報道した報道機関が一部で激しく批判されました。もし部数や視聴率を上げたい、という目的であるなら、こうした批判の中での実名報道は得策ではないでしょう。一線の記者も儲けるために実名を報じるなどと考えることはありません。

 

※Q2でも書いた重大事件での匿名選択がないのは、新たな報道のための理論構築(理屈付け)ができないからではないでしょうか。風俗店入居ビルでの大火事は多数の被害者が出ましたが、多くが匿名で顔写真も出なかったのはなぜか。これが風俗店の客や風俗店従業員でなければ、どうだったか。これについて実名報道にこだわらなかった理由を知りたいものです。

確かに短期的な儲けにはつながらないかもしれませんが、これだけメディアに厳しい目が注がれている中で、旧態依然の報道方法を維持することは長期的には利益だと考えられます。

※「報道しない自由」は明らかにメディアの権益でしょう。

 

<参考>ウィキペディアによると、歌舞伎町ビル火災は、2001年(平成13年)9月1日未明に東京都新宿区歌舞伎町の雑居ビルで起きた火災。44人が死亡し、3人が負傷する被害を出した。日本で発生した火災としては戦後5番目の被害となった。多くの死傷者を出した原因は、ビル内の避難通路の確保が不十分であったためとされる。出火原因は放火とみられているが、2022年(令和4年)現在も未確定である。居合わせた客と従業員のうち、3階の19名中16名、4階の28名全員の計44名が死亡、3階から脱出した3名が負傷した。

 

犠牲者に風俗店従業員や客が多かったことから、ややこしいという判断があったのか、被害者の実名や顔写真はほとんど出ていなかったと記憶しています。この方々は「ワン・オブ・ゼム」と扱われていませんか。10日後には、「9・11」もありこの大火災自体がかき消されてしまいました。

 

Q4:犠牲者や遺族のプライバシーを侵害していませんか?

プライバシーは近年、人々の意識の変化によって「私生活」や「他人に知られたくない」範囲が拡大し、プライバシーも非常に広い意味でとらえられるようになってきました。ただ、プライバシーに関わる事実を実名で報道した場合でも、社会の正当な関心にこたえる内容などであれば、プライバシー侵害は成立しないとされています。また、プライバシーは生きている人がもつ権利で、個人情報保護法上も、亡くなった方は同法による保護の対象外になっています。しかし、私たちは、法的に問題がないのだから実名での報道はどんな時も許されるとは考えているわけではありません。警察庁が 2008 年に行った「犯罪被害者に関する国民意識調査」では、被害者の状況について、一般の人が持つイメージと、殺人や傷害など重大犯罪の被害者や家族の意識を比較しています。「事件に直接関係のないプライバシーに関する報道がされている」という質問に対し、「あてはまる」と答えたのは、一般の人では 77%に上ったのに対し、当事者である被害者や家族は 3%でした。一般の人のイメージと当事者の認識に大きな差がある現状を考慮に入れ、今後も理解が得られるよう努めていきたいと思います。

 

平成20年警察庁調査では、現実の状況とイメージは相当違うということです。当事者の状況の上位は、▽加害者からの被害弁償があったが14.9+15.4%▽加害者からの謝罪14.0%+15.4%▽友人知人の安易な叱咤激励10.7+16.6%。多くの人に当てはまることがあまりない、あるいは、いろんなことがありすぎて印象に残ることは限られてくるのでしょうか。 

そして、事件の中身として半数以上が交通事故で、そもそも取材を受ける事件形態は少ない可能性が高いです。

一方、一般のイメージでは、「事件に直接関係のないプライバシーに関する報道がされている」は2位で、確かに計77%です。あてはまるが32%、ややあてはまる45.7%。

しかし、それより上位の第一位が「報道関係者からしつこく取材を受けている」で、あてはまる40.9%、ややあてはまる41%で計81.9%でした。イメージとはいえこの不信感は伏せて、「どうだ、実際はそんな報道被害はないんだぞ」というのはいかがなものでしょうか。

 

Q5:遺族などへの取材では、どのような配慮をしていますか?

2001 年 12 月、新聞協会は「集団的取材により一層の苦痛をもたらすことのないよう、特段の配慮がなされなければならない」としたうえで、取材の方法から態度や服装、駐車の仕方まで含めた留意点を見解としてまとめました。翌年には協会内に「集団的過熱取材対策小委員会」を設置し、個別の現場レベルで調整や解決できない問題を協議する場としました。また、京都アニメーション事件をきっかけに 2020年 6 月、改めて、代表取材などによる被害者等の負担軽減や記者教育の徹底などについて、申し合わせました。今回、話を伺った遺族の方々からは、実名での報道の大前提は「モラルある取材・報道」や「信頼関係」だとの意見が相次ぎました。ご指摘を戒めにしたいと思います。一部では、ネット発信のみならず、報道も匿名が当然だという風潮があるように見受けられ、無責任かつ誤った情報があふれることにもなりかねません。「実名で語ることができる社会」を理想にしたいと考えています。巧妙に事実を装った「フェイクニュース」などが故意に流されることも多くなり、国や世界を揺るがすケースも出ています。責任を持って正確に事実を伝える報道の意義は高まっており、これからも公正な報道に努めていきます。

 

※「あなたは公益性の犠牲となられました」。社会防衛のために少々の被害は構わないといった予防接種的な考え方のように思います。新聞協会が公表したあと、ヤフコメで次のように批判されています。

<ヤフコメ>

これHPに行って読んだけど、マスコミの一方的な主張だなって印象だった。

名前を出すことで検証可能になる、事件の重大性が印象付けられる、公益性のための実名報道だという報道の良い面ばかりを強調しているのだが、論点はそこじゃないよね。

実名報道をされて苦しめられる人はどうなるの? その人たちは公益性の犠牲になれってことなの?というのが一般的な論点なのに、そこに関しては「配慮しながらやってます」という有耶無耶な回答で、理論的な意義づけをしていない

レポートとしては赤点だし、新聞協会が知恵を絞ってこの程度の理屈しかこねられないなら、新聞社の質も地に堕ちたものだと思う。

 

※「日本新聞協会編集委員会」は、個人名は匿名にして、2006年に小冊子「実名と報道」を発行しています。

厚労省が医師国家試験合格者名をカタカナ表記にしたのをきっかけにした匿名化の流れに抵抗して、「それでも実名にこだわる。実名はメディアの原点だから」と決意表明。「実名報道したことで起きるすべての問題を報道が引き受ける」と大きく出ました。「実名を発表に頼るな」と若い記者を叱咤激励しながら、例えばこれまでも国守衆兵庫チャンネルで取り上げている「災害被害者実名報道」は政府に働きかけて自治体に発表させようとしています。

最高裁で数々、「報道の自由」が認められているとも言いますが、今問題なのは、裁判所で問題提起されたこともない「報道しない自由」「都合よく切り張りして報道する自由」「大事なところを抜かして報道する自由」等々です。

実名こそ国民が知るべき事実の核と言いますが、ならば事件加害者の通名報道はどのように説明するのでしょうか。「報道しない自由」とともにぜひお聞かせいただきたいと思います。

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