「老いを無理やり治療しようとしていないか?」「なぜ日本医師連盟は自民党に多額の寄付をするのか?」~ハライター原の名著紹介「新版 どうせ死ぬなら『がん』がいい」」
きょうは国民が医療側から取り戻さなければならないもののひとつ、がん医療のお話をします。
名著紹介「新版 どうせ死ぬなら『がん』がいい」(中村仁一、近藤誠共著)2018年宝島社新書発刊 2012年発刊6年後の再上梓です。
がんについて目から鱗の話がたくさんあるだけでなく、広く日本の現代医療の儲けのからくりとその中心にいる医者に何もかもお任せの日本人が受けた不利益がよくわかり、死についても考え直すきっかけになる大変お得な本です。
これまで名著紹介で近藤誠さんは取り上げてきました。がんにはがんもどきと本物のがんがあり、本物のがんなら早期発見したところですでに転移は完了しており、手術しても抗がん剤でも歯が立たない。強い治療は体を痛めつけるだけでいいことが何もない。自覚症状がなく人間どっくや検診で見つかる「がんもどき」はそもそも治療する必要がない。
という目から鱗の知識を与えてくれる方です。医療界において極めて異端児ですが、今回はもうおひとりの異端児、老人ホーム診療所所長の医師、市民グループ「自分の死を考える集い」を主宰し、「大往生したけりゃ医療とかかわるな」というベストセラーがある中村仁一さんとの対談です。近藤さんも慶応大病院の放射線科といういわゆる文字通りの日の当たる道ではありませんが、中村さんもいわゆる格下扱いされる位置にいたからこそ、真理に行き付いたように思えます。中村さんは昨年6月に希望通り肺がんで自宅で穏やかに亡くなりました。81歳でした。
流行病で医者の醜悪な拝金主義を見てきました。おふたりのことばが信じられるのは、「がん放置患者」を数多く診てきて、その穏やかな死を見てきたことです。そして、自分の失敗も隠さず語っています。だから今の日本のがん医療のさまざまな問題点への指摘、批判に十分な説得力があるのです。(以下敬称略)
<がん医療への数々の疑問>
中村:「抗がん剤の認可基準というのが『画像診断でがんの面積が半分(最近は長さで決めるようになり、その場合は長径が7割)になった4週間続く患者が、2割いたらOK』ですからね。8割は縮小効果すらなくても認可されちゃうなんて、どうなんですかね」
近藤:ウィーンのビルロート教授は、1881年に世界で初めて胃がんの切除手術に成功し、「胃がん切除術のパイオニア」とされています。…患者は4か月後に再発のため亡くなりその後も失敗続き。なのに胃がんの標準的治療法となって、どんな胃がんでも胃の全部か3分の2を切除することが当然とされ、いまに至るまで「胃切除術をした方が生存期間が長くなる」という実証は出ていない。
近藤:「日本では長野県の『がん検診をやめた村』、泰阜村(やすおかむら)でがん死が明らかに減っています。1989年に胃がんや肺がんなどの集団検診をやめたら、88年以前の6年間は胃がん死亡数が全死亡数の6%を占めていたのが、89年以降の6年間は、全死亡数の2.2%と半分以下に減った、というデータが出ています」
近藤:「早期発見、早期治療」は患者の延命に結び付いていない。「医療技術の進歩によって、日本人の寿命が延びた」と主張する専門家が多いけど、人口に占めるがん全体の死亡率は1960年代から今まで、変わっていません。検査装置が優秀になり、昔よりがんが小さいうちに見つかるようになったから、それが育つ期間分、「がんなのに長生き」したように見せている。
※昔より早く見つけているが、延命にはつながらない。その分長生きしたように見せかけているだけ。
近藤:「150人以上のがん放置患者を定期的に診ることができました、そして理論と事実が完全に一致」
中村「ぼくも老人ホームで、がんを放置した人がどんな死に方をするのかを70例以上診ることができました。病院で『余命はせいぜい2~3か月』と言われたのに、がんを放っておいたら1年近くも生きて、亡くなる直前まで普通の生活ができた、というような例はいくつもあります」
※ぜひみなさんお身内の担当医に聞いてみて下さい。「あなたはがん放置患者を診たことがあるのか?」と。おそらくひとりもいません。
近藤:日本人に多い胃がん、肺がんなど9割の固形がんには、「抗がん剤で生存期間が延びた」「再発の予防に抗がん剤が有効」という実証はない。決して慌てて治療を受けてはいけません。
※延命も再発防止も実証されていない。
近藤:海外では1期の喉頭がんは放射線治療をするから9割近く咽頭を残せる。日本だと1期でもどんどん切る。
近藤:子宮頸がんも、いまだに7割ぐらいは大きな手術。
中村:テレビも新聞も雑誌も99の死屍累々は隠して1の成功例のいい面だけを強調しているのに、みんななんにも疑わないでそのまま受け取る。
近藤:CTの台数は日本が断然世界のトップ。CT検査による被ばく線量も検査が原因の発がん死亡率も世界一。国が避難の目安にした被ばく線量は20ミリシーベルト。胸部CT検査は1回で10ミリシーベルト。日本で行われているCT検査の8~9割は必要ないもの。
近藤:1988年に乳がんの乳房保存療法を書いたときシミュレーションした。慶応で孤立すること、ずっと講師でいること、しかし教員だからやめさせられないし、外来も取り上げられないだろう。そしたら一時乳がん患者の1%が僕のところに来た。
<その他の病気の治療>
近藤:ガイドラインの根拠になるデータがいい加減。利益誘導みたい。高血圧のガイドラインはどんどん低くなっている。降圧剤の売り上げは1988年の2000憶円から2008年に1兆円超え。20年間で6倍。病人が増えたわけではない。血圧の基準値が下がっただけ。根拠はない、経済的な功利だけ。
総コレステロール値も日本人は高い方が長生きと10年以上前からわかっているのに基準値はなかなか上がらない。コレステロール低下薬のスタチン類は年間2600億円。関連医療費はその3倍。
中村:絶対リスクは3%減なのに相対リスクは3割減少とか言われると、普通の人は「へぇそんなに防げるの」ってだまされる。だましやすい表現を使っている。
近藤:2009年の豚インフルエンザのパンデミックで世界のタミフルの7割が日本に流れた。タミフルはパンデミックの直後から効果が疑われたが、製薬会社が行った多くの臨床試験はデータをきちんと公表しなかった。…〇ちんも欧米ではすごく余り、日本人だけが律義に受けた。結局パンデミックが終わってみると普通のインフルエンザよりも軽かった。行政は製薬会社が〇チンを売るのを助けたい。医者は手間賃を稼ぎたい。そんあわけで止める人がいない。
近藤:血圧は基準値をどんどん下げて「検診をやれば2人に1人は高血圧」にさせられている。2000年に正常範囲を最高140、最低90に引き下げた結果、高血圧患者が2000万人以上も増えた。新薬はだいたい11年で特許が切れてもうけが減る。そこでほかの薬と抱き合わせて合成薬をつくる。新薬だと言って降圧剤と別の薬を飲まされる。
近藤:糖尿病も日本の基準は空腹時血糖値126ミリグラム以上で患者が2000万人以上。症状がなく血糖値が高いだけでインスリン療法や血糖降下剤は意味がなく場合によっては命を縮める。
長命地獄、医療地獄…死ぬ前は特にひどい。日本人が一生に使う医療費の2割が死ぬ直前に使われる。
中村:だから「香典医療」と言われる。
良心的な医師がきわめて少数で、彼らの正論が拝金医療システムと100分の1の成功例報道によって国民に届くのが阻まれているのが日本の医療の最大の病巣ではないでしょうか?